将来性・適性

溶接工に将来性はある?|自動化・人材供給・補修需要を公的データで読む

最終更新:2026年6月10日
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「溶接はロボットに置き換わるんじゃないか」——溶接工を続けるか、これから目指すかを考えるとき、多くの人が一度は感じる不安ではないでしょうか。実際にロボット溶接は製造現場で広がっており、不安を「気のせい」と言い切ることはできません。この記事では、感覚ではなく厚生労働省・経済産業省・国土交通省などの公的データと業界団体の認証データをもとに、自動化が進む領域と人の技能が残りやすい領域を分けて整理します。先に言える見立ては、溶接という仕事が丸ごとなくなるより「担当する中身が変わる」構造にあり、技能の幅と難度を積み上げた人ほど選択肢を保ちやすい——ということです。2025年版ものづくり白書(経済産業省・厚生労働省・文部科学省)が示す製造業の人手不足、国土交通省が公表する橋梁老朽化のデータ、溶接技能者の認証推移を並べることで、需要の構造が見えてきます。

需要の現在地——有効求人倍率2.67倍をどう読むか

溶接工の有効求人倍率は2.67倍(令和6年度・ハローワーク求人統計データ/job tag「溶接工」)です。全職業計の1.25倍(令和6年度平均・厚生労働省「一般職業紹介状況」)を上回る水準で、求人に対して応募者が不足している状態が続いています。

ただし、同じ建設・ものづくり系の職種と比べると数字の意味合いは変わります。たとえば鳶は有効求人倍率が22.08倍、配管工は10.83倍(いずれも令和6年度・ハローワーク求人統計データ)と極端な売り手市場が続いています。溶接工の2.67倍はそうした職種ほど突出してはおらず、「人手不足ではあるが、他の建設職種ほど求人が余る状況ではない」という位置づけです。

この背景には、溶接工が建設業と製造業の両方にまたがる職種であることが関係しています。鳶・配管工は建設業固有の職種で、建設業特有の高齢化・若手不足が直接響きます。溶接工は建設現場(橋梁・鉄骨・プラント配管)と工場(自動車部品・機械・造船)の双方に分散しており、製造業側の需給バランスが倍率を下げる方向に働いています。

倍率だけで将来性の全てを判断するのは正確ではありません。次から、需要が続く構造的な根拠を掘り下げます。

自動化の実際——定型量産と現場溶接は別の話

「ロボット溶接が仕事を奪う」という懸念は正面から取り上げる必要があります。実態は、自動化が進む領域とそうでない領域に分かれます。

自動化が進む領域

自動車の車体溶接・工場の定型ラインなど、同じ形状・材質の部品を大量に繰り返す工程は、産業用ロボットへの置き換えが進んでいます。ロボット溶接は均一な品質と高い生産効率が強みで、需要がある限り導入は続くとみられます。

人の技能が残りやすい領域

一方で、次の領域では人の技能が引き続き求められると考えられます。

  • 現場溶接・補修作業:橋梁の溶接補修、建設現場の鉄骨接合など、一点もので形状が異なる作業。ロボットを現場に持ち込んで設置・調整するコストが大きく、人が対応するほうが現実的な場合が多い
  • 多品種少量・試作品:航空・精密機器・医療機器向けなど、製品ごとに仕様が異なる溶接は、プログラム設定の手間がかかり人手が効率的
  • 複雑形状・狭所・高所:人でなければ入れない空間や、姿勢を変えながら複数方向から溶接する工程
  • TIG溶接・高難度材料:ステンレス・チタン・特殊合金など精密さが要求される溶接は、自動化への置き換えが進みにくいとされる分野が残る
  • ロボット設備のティーチング・管理:ロボット溶接が増えるほど、溶接の品質基準を理解したうえで設備を教示・管理できる人材の需要が生まれやすい

「溶接がなくなる」よりも「担当する仕事の中身が変わる」と捉えたほうが実態に近いと考えられます。定型の大量生産ラインで同じ工程だけを担当し続けている場合は、中長期で自動化の影響を受けやすい。一方、現場溶接・補修・多品種少量・高難度溶接の領域に対応できる技能と資格を持つ人は、仕事が変わっても価値を保ちやすい構造があると考えられます。

供給側:認証受験者は横ばい——有資格者の希少性が上がる構造

需要と並んで重要なのが、供給側の動きです。

111,902人 2019年 100,466人 2020年 110,931人 2021年 104,035人 2022年 約10〜11万人で横ばい 出典:一般社団法人 日本溶接協会(業界団体の認証データ・2022年度時点。公的統計ではない)
溶接技能者(通称:JIS溶接技能者)の認証受験者数は2019〜2022年で約10〜11万人で推移し、横ばいが続く。有資格者の新規供給が増えていないことは、技能を持つ溶接工の相対的な希少性を維持する方向に働きやすい。出典:一般社団法人 日本溶接協会(業界団体の認証データ・2022年度時点・公的統計ではない)。2020年は新型コロナウイルスの影響で受験機会が減少した可能性がある。

一般社団法人 日本溶接協会の認証データ(2022年度時点・業界団体の認証データであり公的統計ではない)によると、溶接技能者(通称:JIS溶接技能者)の受験者数は2019年に111,902人、2020年に100,466人、2021年に110,931人、2022年に104,035人と推移しており、2019〜2022年の4年間、約10〜11万人の横ばいが続いています。2022年度の合格者数は80,896人です。

この横ばいは何を意味するか。有資格者の新規供給が急増していないということは、技能を持つ溶接工の相対的な希少性が維持されやすい状態にあると読み取れます(受験者数は資格保有者の総数そのものではない点には留意が必要です)。需要が残る方向に向かいながら、供給側が増えていない——この構造が「溶接技能のある人の価値」を支えやすい一因です。

指導できる人材が不足している

供給が増えにくい背景には、技能を次世代に伝える人材の不足もあります。2025年版ものづくり白書(経済産業省・厚生労働省・文部科学省)が引用した厚生労働省「能力開発基本調査」のデータでは、6割以上の事業所が「指導する人材が不足している」と答えています。

溶接は習得に時間がかかる技能です。被覆アークで基礎を身につけ、半自動・TIGへ対応を広げ、橋梁や圧力容器などの高難度工種へ進むには、年単位の経験の積み上げが必要とされます。その技能を教えられる熟練者が少ない構造は、次の世代への技能継承を難しくし、有資格・有技能の溶接工の市場価値を高める方向に働きます。

なお2025年版ものづくり白書によると、製造業の就業者数は2023年の1,055万人から2024年には1,046万人へと減少しています。また同白書が引用する中小企業庁「中小企業景況調査」では、2024年の従業員数過不足DIはマイナス18.2で、不足超過が続いています。製造業全体として人材確保の難しさが続いており、溶接を担える人材への需要は底堅いとみられます。

需要側:橋梁の老朽化が長期的な補修需要をつくる

建設現場における溶接工の需要として、橋梁の老朽化による補修・補強工事の増加があります。

約42% 2025年3月 約54% 2030年3月 約75% 2040年3月 出典:国土交通省(道路橋約73万橋のうち建設後50年以上経過した割合)
道路橋(約73万橋)のうち建設後50年以上が経過した割合。2025年3月時点で約42%、2030年3月には約54%、2040年3月には約75%に達する見通し(国土交通省)。老朽化が進む鋼橋の補修・補強溶接の需要は長期的に続くとみられる。

国土交通省のデータによると、道路橋(約73万橋)のうち建設後50年以上が経過した割合は、2025年3月時点で約42%、2030年3月には約54%、2040年3月には約75%に達する見通しです。

橋梁の老朽化対策では、鋼橋の溶接補修・補強が必要になります。特に溶接継手部のき裂補修や鋼部材の溶接接合は、現地で溶接技能者が作業する工程です。道路橋の75%が建設後50年を超える2040年に向けて、こうした補修・維持管理の工事は増えていく方向にあるとみられます(実際の溶接補修の量は、鋼橋の割合や採用される工法によって変わります)。これは工場の量産溶接とは異なり、一点ずつ条件が違う現場溶接であるため、自動化が難しく人の技能が要る領域です。

建設業の2024年問題(2024年4月から時間外労働の上限規制が適用。罰則は6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)による就労時間の上限管理は、一人あたりの稼働量を絞る方向に働くため、限られた担い手への需要集中につながる側面があります。なお建設業の55歳以上が就業者の36.6%を占め、29歳以下は11.9%にとどまる(令和7年・総務省「労働力調査」をもとに国土交通省作成)という年齢構成は、建設現場側で働く溶接工の環境にも関わる背景です。

「業界の需要がある」と「自分が続けられるか」は別の問題

ここまで需要側・供給側の構造を整理してきましたが、業界に需要がある状態と、個人が長く安定して働けるかは別の問題です。

自動化の影響を受けにくく、かつ長く需要が続きそうな溶接の仕事に就けるかどうかは、個人の技能の幅と難度、どの工種・職場を選ぶか、で変わります。「溶接工に将来性がある」という言葉が、今のポジション・今の職場にそのままあてはまるとは限りません。

向き不向きの問題(溶接という仕事が自分に合うか、続けられる体質か)は、将来性とはまた別の軸です。この点については溶接工に向いてる人・向いてない人で仕事内容から詳しく整理しています。

将来を見据えた働き方の選択肢

需要の構造を踏まえると、現実的な選択肢は次のように整理できます。

複数の溶接法・工種への対応力を広げる

被覆アーク・半自動だけでなく、TIG溶接やステンレス・圧力容器・橋梁溶接など高難度工種への対応ができると、自動化しにくい領域での求人に対応しやすくなります。溶接技能者(通称:JIS溶接技能者)の上位グレード・高難度種目の取得は、特定の工事仕様で求められる要件になる場合があります。担当できる溶接の幅と難度を広げるほど、定型量産ライン以外の選択肢が開きやすくなります(ただし単価の上昇を保証するものではありません)。

管理・監督側へのシフトを視野に入れる

溶接管理技術者(溶接管理技術者2級・1級)や建築・土木系の施工管理技士を取得して、現場の品質管理・施工管理の役割に移行すると、年齢を重ねても対応できる仕事の幅が保ちやすくなります。ロボット溶接設備の管理・ティーチングを担う立場も、溶接の品質基準を知っている人間が有利な役割です。管理側への移行は中長期の計画が必要ですが、現場での溶接経験が評価される分野でもあります。

職場・工種を見直す

同じ「溶接工」でも、工場の定型ラインと建設現場の補修溶接では自動化リスクの程度が大きく違います。今の職場が定型ラインの繰り返しであれば、補修・高難度工種・多品種少量への対応が求められる職場に移ることで、自動化の影響を受けにくい仕事に近づく場合があります。ただし希望する条件・工種の求人が常にあるとは限らず、転職すれば必ず改善するわけではありません。

鉄骨橋梁の補修現場で、錆びた鋼材のき裂部分を確認している溶接工の後ろ姿。溶接面を装着し補修前の状態が映り込んでいる(顔なし)
橋梁の老朽化に伴う補修・補強は、現地で溶接技能者が対応する仕事。一点ずつ条件が変わる現場溶接は、定型量産ラインとは異なり自動化が難しい領域のひとつ。

将来の選択肢は「業界に需要があるから安心」という話ではなく、自動化が進みにくい領域の技能と経験を積み上げていった人ほど手にしやすいものです。年収の実態や工場・建設現場での待遇の違いについては溶接工の年収はいくら?で、きつさや続けるかどうかの判断軸については溶接工はきつい?で、それぞれ公的データをもとに整理しています。

まとめ

  • 溶接工の有効求人倍率は2.67倍(令和6年度・ハローワーク求人統計データ)と全産業平均を上回る水準で、需要が消えている状態ではない。ただし鳶(22.08倍)・配管工(10.83倍)ほどの極端な売り手市場ではなく、建設業・製造業の双方にまたがる職種特有の複雑さがある
  • 自動化が進む定型の大量生産溶接と、人の技能が要る現場溶接・補修・多品種少量・高難度溶接は、別の話として分けて考えるほうが実態に近い。ロボット設備の管理・ティーチングも、溶接を理解した人材が担う役割
  • 溶接技能者(通称:JIS溶接技能者)の認証受験者数は2019〜2022年の4年間で約10〜11万人の横ばい(一般社団法人 日本溶接協会・2022年度時点の業界団体データ)。新規供給が増えない構造は技能者の希少性を支えやすい。さらに6割以上の事業所が指導人材不足と答えており(2025年版ものづくり白書が引用する厚生労働省「能力開発基本調査」)、熟練技能の継承が課題になっている
  • 道路橋(約73万橋)の建設後50年経過割合は2025年3月約42%→2030年3月約54%→2040年3月約75%(国土交通省)。老朽化した鋼橋の補修・補強溶接の需要は長期にわたって続くとみられる
  • 「業界に需要がある」と「自分が長く安定して働けるか」は別の問題。担当できる溶接の幅と難度を広げ、自動化しにくい領域の技能を積み上げることで、将来の選択肢は保ちやすくなる傾向がある

よくある質問

Q. 溶接工に将来性はありますか?
A. 需要が丸ごとなくなる可能性は低いと考えられますが、「安泰」と言い切れるほど単純でもありません。有効求人倍率は2.67倍(令和6年度・ハローワーク求人統計データ)で全産業平均を上回る人手不足の状態にあります。ただし鳶や配管工ほど極端な売り手市場ではなく、製造業・建設業の双方にまたがる職種特有の複雑さがあります。自動化が進む定型の大量生産溶接と、人の技能が要る現場溶接・補修・多品種少量・ティーチング管理は分けて考えるのが現実的です。

Q. 溶接はロボットに置き換わりますか?
A. 定型の大量生産ラインでは自動化・ロボット溶接がすでに進んでいます。一方で、現場溶接・補修・多品種少量・複雑形状・狭所での作業は自動化が難しく、人の技能が要る領域として残りやすいとみられます。さらにロボット溶接設備のティーチングや品質管理・維持を担う人材も必要で、自動化が進む職場ほど「溶接を知っている人間」の価値が上がる側面もあります。

Q. 溶接技能者の有資格者は増えていますか?
A. 一般社団法人 日本溶接協会のデータ(2022年度時点)では、溶接技能者(通称:JIS溶接技能者)の受験者数は2019〜2022年の4年間、約10〜11万人で横ばいが続いています。有資格者の数が急増していないことから、技能を持つ溶接工の相対的な希少性が維持されやすい状態にあると読み取れます。ただしこれは業界団体の認証データであり、公的統計とは性質が異なる点に留意が必要です。

Q. 溶接工として将来も安定して働くにはどうすればいいですか?
A. 複数の溶接法(被覆アーク・半自動・TIG)に対応できる幅を広げること、補修・高難度工種・多品種少量など自動化しにくい領域の経験を積むこと、溶接技能者(通称:JIS溶接技能者)の上位グレードや溶接管理技術者の取得で管理・監督側への移行を視野に入れることが、長期的な選択肢として挙げられます。ただし転職や資格取得が将来の安定を保証するわけではありません。

出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「溶接工」(有効求人倍率2.67倍・就業者数163,710人・平均年収454.7万円・平均年齢41.8歳は令和7年賃金構造基本統計調査をもとに集計・2026年3月公表。有効求人倍率・求人統計は令和6年度ハローワーク求人統計データ/職業安定業務統計をもとに集計)、国土交通省(道路橋の建設後50年経過割合 約42%→約54%→約75%・2025年3月→2030年3月→2040年3月時点)、2025年版ものづくり白書(経済産業省・厚生労働省・文部科学省)(製造業就業者1,046万人・2024年。中小企業の従業員数過不足DI マイナス18.2は中小企業庁「中小企業景況調査」2024年を白書が引用。6割以上の事業所が指導人材不足とする値は厚生労働省「能力開発基本調査」を白書が引用)、一般社団法人 日本溶接協会(溶接技能者認証の受験者数推移・2022年度時点。公的統計ではなく業界団体の認証データ)、総務省「労働力調査」をもとに国土交通省作成(建設業就業者の年齢構成・55歳以上36.6%・29歳以下11.9%・令和7年)。数値は調査年・基準年により変動します。最新の値は各公式統計をご確認ください。