「新築が減っているなら塗装の仕事も先細りするんじゃないか」——塗装業界を続けるか・これから目指すかを考えるとき、一度は頭をよぎる不安ではないでしょうか。新設住宅着工が令和7年(暦年)74万667戸と3年連続で減少し62年ぶりの低水準(国交省「建築着工統計」)に達したのは事実です。ただし塗装という仕事の需要は新築着工数と単純にリンクしません。建物は定期的な塗り替えが必要とされ、全国に約6,500万戸(総務省「住宅・土地統計調査」令和5年・概数)ある住宅ストックが塗り替え需要を継続的に生み出す構造があります。この記事では、厚生労働省・国土交通省・総務省の公的データをもとに、塗装工の需要が成り立つ構造と、業界に需要があることと個人が長く働き続けられるかの切り分けを整理します。
需要の現在地——有効求人倍率5.43倍をどう読むか
塗装工(建築塗装工)の有効求人倍率は5.43倍(令和6年度・ハローワーク求人統計データ/job tag「建築塗装工」)です。全職業計の1.25倍(令和6年度平均・厚生労働省「一般職業紹介状況」)と比べると、4倍以上の水準です。
5.43倍という数字は、1人の求職者に対して5件以上の求人が出ている計算になります。建設業全体でも就業者の高齢化と若手不足が進んでいますが(建設業就業者の55歳以上が36.6%、29歳以下は11.9%。令和7年・総務省「労働力調査」をもとに国土交通省作成)、塗装職種はそのなかでも求人が余りやすい状態が続いています。
倍率だけで将来性の全てを判断することはできませんが、現時点で塗装工の需要が消えている状態にはないことを示す指標のひとつです。次から、この需要が続く構造的な根拠を掘り下げます。
新築着工は減っている——でも塗装は塗り替えが主軸
新設住宅着工は令和7年(暦年)74万667戸と3年連続で減少し、62年ぶりの低水準となりました(国交省「建築着工統計」・暦年)。人口減少・空き家増加・住宅ローン金利の上昇などが背景にあるとされており、この減少傾向が急に反転する可能性は現時点では低いとみられています。
ただし、塗装業にとって重要なのは「新築着工が増えるか減るか」より、「既存の建物がどれだけ塗り替えを必要としているか」です。
建物の外壁や屋根は、一般に定期的な塗り替えが必要とされます(⚠️「10〜15年周期」は業界内で広く語られる目安ですが、公的機関が統計として確定した周期値ではありません。建物の立地・材質・施工品質によって大きく変わります)。つまり、過去に建てられた建物の数が多ければ多いほど、将来にわたって塗り替え需要が発生し続ける構造になります。
新築が1棟建つより、既存の建物が塗り替えを迎えることのほうが、塗装業全体の仕事量に占める割合としては大きいと業界では一般的に言われています。「新築が減ったから塗装の仕事も減る」という見立ては、この構造を見落としています。
需要側——住宅ストック約6,500万戸と改装・改修投資13兆円
塗り替え需要の母数を示す指標として、住宅ストックの規模があります。
全国の住宅総数は約6,500万戸(総務省「住宅・土地統計調査」令和5年・概数。速報ベースのため概数)です。毎年70〜80万戸程度の新築が供給されている一方、既存ストックは数十年分が積み上がっており、この規模感が続く限り塗り替えの対象となる建物の母数は維持されます。
改装・改修投資の規模も確認します。国交省「建設投資見通し」によると、民間建築補修工事(改装・改修)の令和7年度見通しは13兆500億円(前年度比+2.5%)です。別集計になりますが国交省「建築物リフォーム・リニューアル調査」によると、令和6年度のリフォーム・リニューアル受注高は13兆8,303億円(前年度比+4.2%)です(⚠️この2つは調査の対象・集計方法が異なる別集計のため、単純に合算はできません。それぞれ独立した指標として参照してください)。
いずれの指標でも、改装・改修に関連する市場は現時点で縮小していません。塗装工事は外壁・屋根の維持修繕の主要工事に含まれるため、この市場規模の持続が塗装業の受け皿になっています。
供給側——担い手不足の構造
需要側の根拠と合わせて、供給側の状況も確認します。
建設業就業者は令和7年で478万人(国交省推計)と長期的に減少傾向が続いています。年齢構成でみると55歳以上が36.6%、29歳以下は11.9%(令和7年・総務省「労働力調査」をもとに国土交通省作成)であり、高齢化と若手の少なさが顕著です。建設業全体の高卒3年以内離職率は43.2%(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」)と若手の定着が難しい実態も反映されています。
塗装工は特に「外注・一人親方」の割合が高い職種でもあり、統計に捕捉されにくい就業者の高齢化がさらに進んでいるとみられます。若い担い手の新規参入が少ない一方、既存のベテランが引退していく構造は、有効求人倍率5.43倍という数字の背景のひとつと考えられます。
2024年問題(建設業への時間外労働の上限規制適用。罰則は6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)による就労時間の上限管理は、一人あたりの稼働量を圧縮する方向に働くため、同じ仕事量をこなすために必要な人手が増える側面があります。担い手不足を構造的に深めやすい環境が続いています。
「業界の需要がある」と「自分が続けられるか」は別の問題
ここまで需要側・供給側の構造を整理してきましたが、業界に需要がある状態と個人が長く安定して働けるかは別の問題です。
有効求人倍率が高く、改修投資の市場が維持されていても、それが自分の働く現場・会社・待遇に直結するかどうかは別の話です。景況・受注の波・体力的な負担・季節変動など、日々の仕事のきつさや続けやすさは、需要の構造とは切り離して考える必要があります。
塗装工としての仕事のきつさや向いている人の特徴については塗装工はきつい?で整理しています。
働き方の選択肢——長く働くために取れる道
需要の構造を踏まえると、長く続けるうえでの実際的な選択肢は次のように整理できます。
塗装技能士の取得で技能を証明する
塗装技能士(国家技能検定・1級・2級)は、外壁塗装・建築塗装において一定の技能水準を証明する資格です。元請けや発注側が施工業者を選ぶ際に参照されることがあり、資格の有無が受注単価や評価に影響するケースがあります(ただし資格取得が単価上昇を保証するわけではありません)。上位の1級は実務経験要件があり、現場経験を積み上げながら取得するルートが一般的です。
施工管理側へのシフト
建築施工管理技士(1級・2級)を取得して、現場監督・施工管理の役割に移行すると、体力的な負担を緩和しながら建設業に携わり続けられる可能性があります。塗装現場の経験は品質管理・工程管理の実務に役立つ場面があります。ただし施工管理は責任の重さや調整の多さという別の負担があり、「塗装の現場作業より施工管理のほうが楽」とは一概に言えません。
外壁診断・防水・特殊塗装への展開
外壁診断士・外壁劣化診断士などの資格を取得してリフォーム提案に関わること、防水・ウレタン塗装・重防食塗装など単価の高い工種への対応力を広げることで、同じ塗装工でも収益性の高い仕事への接近が可能になる場合があります。特殊塗装は自動化しにくく、対応できる職人が少ない領域でもあります。
独立・一人親方・外壁塗装の元請け
自営・一人親方として元請けに近い立場で受注できると、下請けの単価制約から離れやすくなります。外壁塗装はインターネットでの集客(地域業者の見積もりサイト・SNS)と相性が良く、個人事業主・小規模工務店が直接受注しているケースも見られます(⚠️受注確保・資金繰り・社会保険の全額自己負担など独立特有のリスクも伴います)。
将来の選択肢は「業界に需要があるから安心」という話ではなく、自分が対応できる領域と難度を広げていった人ほど選択肢が保ちやすい傾向があります。年収の実態については塗装工の年収はいくら?で公的統計をもとに整理しています。
まとめ
- 塗装工(建築塗装工)の有効求人倍率は5.43倍(令和6年度・ハローワーク求人統計データ)と全産業平均1.25倍を大きく上回る人手不足の状態にある。担い手の高齢化・若手不足が続く供給側の構造が背景にある
- 新設住宅着工は令和7年(暦年)74万667戸と3年連続で減少・62年ぶり低水準(国交省「建築着工統計」)。ただし塗装の需要は新築よりも塗り替え・維持修繕が主軸で、住宅ストック約6,500万戸(総務省「住宅・土地統計調査」令和5年・概数)という母数が需要を継続的に生み出す構造がある
- 民間建築補修工事(改装・改修)の令和7年度見通しは13兆500億円(前年度比+2.5%・国交省「建設投資見通し」)。改修市場は縮小していない
- 外壁塗装・屋根塗装は高所・養生・形状への対応が必要な現場作業で、自動化が難しい領域のひとつ。仕事そのものがなくなるより担当する内容が変わる可能性のほうが現時点では現実的
- 「業界に需要がある」と「自分が長く安定して働けるか」は別の問題。塗装技能士・施工管理資格・特殊塗装への展開・独立など、選択肢は複数あるが、どれも安定を保証するものではない
よくある質問
Q. 塗装工に将来性はありますか?
A. 需要が消える可能性は低いとみられますが、「安泰」と断言できるほど単純でもありません。有効求人倍率は5.43倍(令和6年度・ハローワーク求人統計データ)と全産業平均1.25倍を大きく上回る人手不足の状態が続いています。新設住宅着工は減少していますが、塗装は新築よりも塗り替え・維持修繕が主軸で、全国約6,500万戸の住宅ストック(総務省「住宅・土地統計調査」令和5年・概数)が需要を下支えする構造があります。ただし業界に需要がある状態と個人が長く安定して働けるかは別の問題です。
Q. 塗装の仕事はなくなりますか?
A. 外壁塗装・屋根塗装は高所での養生・マスキング・吹き付け・刷毛仕上げなど現場ごとに条件が変わる作業で、自動化が難しい領域のひとつとされています。建物は定期的な塗り替えが必要とされるため、住宅ストックが約6,500万戸ある限り一定の需要が続くとみられます。「仕事がなくなる」より「担当する内容が変わる」という方向の変化のほうが現実的と考えられますが、将来の技術動向を断言することはできません。
Q. 塗装工の有効求人倍率はどのくらいですか?
A. 5.43倍(令和6年度・ハローワーク求人統計データ/job tag「建築塗装工」)です。全職業計の1.25倍(令和6年度平均・厚生労働省「一般職業紹介状況」)を大きく上回り、求人に対して応募者が大幅に不足している状態が続いています。
Q. 塗装工として将来も長く働くにはどうすればいいですか?
A. 塗装技能士(1級・2級)の取得で技能の証明と単価交渉力を高めること、建築施工管理技士の取得で管理・監督側へシフトすること、外壁診断や防水・特殊塗装など対応領域を広げること、独立・一人親方として元請けに近い立場を目指すことが長期的な選択肢として挙げられます。ただし資格取得や転職が将来の安定を保証するわけではなく、個人の状況によって適した道は異なります。
出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「建築塗装工」(有効求人倍率5.43倍・平均年収約497.7万円・平均年齢41.6歳は令和7年賃金構造基本統計調査をもとに集計・2026年3月公表。有効求人倍率・求人統計は令和6年度ハローワーク求人統計データ/職業安定業務統計をもとに集計)、厚生労働省「一般職業紹介状況」(全職業計の有効求人倍率1.25倍・令和6年度平均)、国土交通省「建築着工統計」(新設住宅着工74万667戸・令和7年暦年)、総務省「住宅・土地統計調査」令和5年(全国住宅総数約6,500万戸・概数・速報ベース)、国土交通省「建設投資見通し」令和7年度(民間建築補修工事13兆500億円・前年度比+2.5%)、国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査」令和6年度(リフォーム・リニューアル受注高13兆8,303億円・前年度比+4.2%)、総務省「労働力調査」をもとに国土交通省作成(建設業就業者の年齢構成・55歳以上36.6%・29歳以下11.9%・令和7年)。数値は調査年・基準年により変動します。最新の値は各公式統計をご確認ください。