「鳶職はこの先も食べていける仕事なのか」——人手不足だから安泰という声も、建設不況で仕事が減るという声も、ネットで調べるほど混乱してくる。この記事では経済的な感覚論ではなく、国土交通省・厚生労働省・ハローワーク統計といった公的データをもとに、需要の構造と担い手の現状を分解します。先に言える見立ては、需要面の土台は当面底堅い一方、業界の需要と個人が長く続けられるかは切り分けて考える必要がある、ということです。
需要の現在地:有効求人倍率22.08という数字
鳶職(とび)の有効求人倍率は22.08(令和6年度・ハローワーク求人統計データ/職業安定業務統計・job tag掲載)。求職者1人に対して22件超の求人がある計算で、全職種のなかでも突出した水準です。
ただし、この数字の意味するところには留保が要ります。ハローワーク経由の求人ベースの指標であり、職業全体の需給そのものを示すわけではありません。採用が容易であることを意味するわけでもなく、高所作業への適性・体力・日給制による収入変動などが人材確保を難しくしている面があります。「倍率が高い=誰でも安泰」とは読めません。
それでも、鳶職が構造的な人手不足にあることは、求人統計と建設業全体の担い手データが一致して示しています。就業者数は約111,940人(令和2年国勢調査)、平均年齢は41.9歳、平均年収は約414.5万円(令和7年賃金構造基本統計調査ベース・job tag。雇用労働者ベースの目安で、職種区分が粗く近隣職種と同区分。詳細は鳶職の年収参照)です。
仕事が消えない構造:インフラ50年経過の現実
鳶職の需要を支える太い柱が、国内インフラの老朽化更新です。
国土交通省の資料によると、建設後50年以上経過する道路橋(約73万橋)の割合は、2025年3月時点で約42%。これが2030年3月には約54%、2040年3月には約75%に達する見込みです。トンネル(約1.2万本)も同じ方向で、2025年時点の約28%が2030年には約35%、2040年には約52%になる見通しとされています。
老朽化した橋の点検・補修・架け替えには、多くの場合足場の組立て・解体と、鉄骨の接合・建方という工程が伴います(点検手法によってはドローン・ロープアクセス等で足場を使わない場合もあります)。新築の建物が減少しても、既存インフラの維持更新は避けられず、足場鳶・鉄骨鳶の仕事の根拠が消えるわけではない——これが「鳶職はなくならない」という見立ての根拠です。
あわせて、建設投資見通しも参考になります。令和7年度の建設投資は75兆5,700億円(前年度比+3.2%)で、投資額ベースでは工事量が急減する状況は読み取れません(国土交通省「令和7年度建設投資見通し」。投資額は資材価格等の影響も受けます)。
担い手の減少と処遇の追い風
需要が残る一方で、担う人が減っています。これが業界にとってのもう一つの構造問題です。
建設業の就業者数はピーク(平成9年:685万人)から大きく落ち込み、令和7年には478万人(暦年平均)まで減少しています(総務省「労働力調査」をもとに国土交通省が作成)。技能者は296万人です。
年齢構成はさらに課題が深刻で、令和7年時点で55歳以上が36.6%を占め、29歳以下はわずか11.9%です。全産業では55歳以上が32.8%、29歳以下が17.0%で、建設業の高齢化と若手不足は全産業比でも顕著な水準にあります。
将来推計として、令和7年版国土交通白書は建設経済研究所の推計を引用し、建設技能労働者はおおよそ5年ごとに約7〜8%ずつ減少し、減少率は拡大する見込みとしています。ただし、これは建設業全体の推計であり、鳶職単独の公式将来推計は存在しません。
2024年問題:労働時間の上限規制と処遇の改善
2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました(労働基準法・原則として月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間以内等。違反には6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)。一人あたりの労働時間が制限されるなかで、限られた人数で工事を回す必要があり、技能労働者の希少性はより高まりやすい状況です。
処遇面の動きも見逃せません。国土交通省が2026年3月に適用した公共工事設計労務単価では、とび工の単価が30,780円(前年比+4.0%)となり、全職種の加重平均25,834円(全職種単純平均では前年比+4.5%)は初めて25,000円を超えました(14年連続の引き上げ)。公共工事の設計労務単価は公共工事の積算に用いるものであり、個々の労働者の賃金を直接保証するものではありませんが、民間市場の参照点になる面があり、単価面の改善が続いています。
「業界の需要」と「自分が長く続けられるか」は別問題
需要が底堅いことと、個人が何十年も鳶職として活躍し続けられることは、切り分けて考える必要があります。
高所作業・体力負荷は年齢とともに重くなります。担い手が減るからこそ、資格を積んで職長・施工管理へ役割を広げていける人は選択肢が増えやすい。逆に、資格取得を止めて体力だけで乗り切ろうとすると、年齢を重ねるにつれて頭打ちを感じやすい傾向があります。
向き不向きの判断軸——高所への適性・安全手順を守れるか・チームの段取りで動けるか——については鳶職に向いてる人・向いてない人で詳しく整理しています。「将来性がある業界かどうか」という問いとは別に、「自分がこの仕事を長く続けられるか」は適性の問いです。合わせて確認してみてください。
将来を見据えた働き方の選択肢
将来性を踏まえると、現実的な選択肢は次のように整理できます。
- 資格を積み上げてキャリアの幅を広げる → とび技能士(1〜2級)・足場の組立て等作業主任者・玉掛け技能講習・職長教育などを取得し、職長・現場管理の立場へ進む。管理側に移ると、体力勝負だけのキャリアとは異なる選択肢が開けます
- インフラ維持更新の仕事に関わる → 橋梁・トンネルの補修・架け替えは今後増えると見込まれる分野。そうした工事に強みを持つ会社で経験を積むことは、将来の市場価値につながる可能性があります
- 施工管理への転換を視野に入れる → 体力面の変化を見越して、鳶職の現場経験を活かしながら施工管理側にシフトする道もあります。鳶の経験は高所・仮設・鉄骨工程の理解という点で施工管理でも評価されやすい面があります
- 条件の良い職場へ移る → 同じ鳶職でも、月給制・元請けに近い会社・週休2日制の導入が進む会社では待遇の水準が異なります。鳶職の経験と資格は転職市場で評価されやすく、環境を選び直すことで長く続けられる場合があります。ただし希望に合う求人が常にあるとは限らず、合わなければ断ってかまいません。きつさの実態や職場選びの軸については鳶職がきついと言われる理由も参考にしてください
需要と処遇の追い風を自分のものにできるかは、資格と経験をどう積み上げ、どの環境で働くかで変わります。下のカードでは建設・職人に特化した転職エージェントを中立に比較しています。担当工種・対応地域・サポート内容に差があるので、複数を見比べて自分で判断する材料にしてください。
まとめ
- 有効求人倍率22.08(令和6年度・ハローワーク求人統計)は全職種でも突出した人手不足を示す。ただしハローワーク経由求人ベースの指標であり、「倍率が高い=誰でも安泰」とは読めない
- 道路橋(約73万橋)の50年経過割合は2025年3月の約42%から2040年3月には約75%になる見通し(国土交通省資料)。老朽インフラの維持更新には足場・鉄骨の工程が伴うことが多く、仕事の需要が消える構造的な理由は見当たらない
- 建設業の担い手は55歳以上36.6%・29歳以下11.9%(令和7年・全産業比でも高齢化と若手不足が顕著)。技能労働者はおおよそ5年ごとに約7〜8%ずつ減少する見込みで、需要を支える人材が細る。鳶職単独の公式将来推計は存在しない
- 労務単価:とび工30,780円(2026年3月適用・前年比+4.0%)、14年連続引き上げ。単価面の改善が続いている(実際の賃金を保証するものではない)
- ただし「業界の需要がある」と「個人が長く続けられる」は別問題。資格と役割の積み上げ方が将来の選択肢を左右する
よくある質問
Q. 鳶職に将来性はありますか?
A. 需要面の将来性は底堅いとみられます。インフラの老朽化更新(道路橋の50年経過割合が2040年時点で約75%)・建設投資の増加傾向・担い手の減少という三つの構造が重なり、足場や鉄骨組立を担う鳶職の仕事が急減する理由は見当たりません。ただし建設業全体の技能労働者はおおよそ5年ごとに約7〜8%ずつ減少が続く見込み(令和7年版国土交通白書が引用する推計)であり、業界の需要と個人が長く続けられるかは別の問題です。
Q. 鳶職はAIや自動化でなくなる仕事ですか?
A. 高所での足場の組立て・解体や鉄骨の建方・接合は、不安定な形状の構造物に人が身体ごとアクセスして判断しながら行う作業が主体です。現状の技術水準では短中期に丸ごと自動化される可能性は高くないと考えられます。一方で、図面管理・工程調整のデジタル化は進んでいます。技能と資格を持つ現場人材の価値が相対的に高まりやすいとみる見方もありますが、これは公的統計そのものではなく需要構造からの分析上の見立てです。
Q. 鳶職として長く続けるためには何が大事ですか?
A. 業界に需要があることと、個人が長く活躍できることは別問題です。とび技能士・足場の組立て等作業主任者・玉掛けといった資格を段階的に積み、職長・施工管理へ役割を広げていける人ほど、年齢を重ねても選択肢が保ちやすい傾向があります。高所作業の身体的な負荷は年齢とともに重くなるため、管理側への移行を早めに見据えることも重要です。向き不向きの詳しい判断軸は鳶職に向いてる人・向いてない人で整理しています。
出典:国土交通省資料(建設後50年以上経過する社会資本の割合・道路橋約73万橋およびトンネル約1.2万本の推移・2025年3月→2030年3月→2040年3月基準)、総務省「労働力調査」をもとに国土交通省作成(建設業の就業者数推移・年齢構成・令和7年)、令和7年版国土交通白書(建設経済研究所の推計を引用・建設技能労働者の将来推計)、国土交通省「令和7年度建設投資見通し」(75兆5,700億円・前年度比+3.2%)、国土交通省「令和8年3月適用公共工事設計労務単価」(とび工30,780円・前年比+4.0%・加重平均25,834円)、厚生労働省「職業情報提供サイト(job tag)」(有効求人倍率22.08・就業者数111,940人・平均年齢41.9歳・平均年収約414.5万円は令和7年賃金構造基本統計調査ベース・令和6年度ハローワーク求人統計)、厚生労働省・労働基準法(2024年4月建設業適用の時間外労働上限規制)、建設キャリアアップシステム(CCUS)技能者登録183万人(2026年4月末時点)。将来推計は見通しであり確定値ではありません。最新の値は各公式統計をご確認ください。